文字狂い

オタクにもサブカルにもなににもなれずに死ぬ

ゆーれいみマン

 うううううう死にたい。死にたい。何で死にたいかはよくわからないけど、でもそれ言ったら生きる意味の方が見つけるのが難しくないですか。みんな何のために生きてるんですか。みんな、聴きたい音楽とか知りたい情報とか食べたい物とかあるんですか。僕にはないです。もう毎日三食ウィダーインゼリーでいいです。最近の曲なんかもうクソみたいな曲だらけです音楽には興味ありません。僕の部屋にはベットとパソコンしかないけれど、僕には知りたいことなんてない。いったい僕は何をしたらいいんだ。とりあえず寝るけど、寝過ぎると頭痛くなりますよね。起きざるを得ないのです。起きて何もしません。寝たふりばっかりしています。考えることは考え切ってしまってもう出涸らしです。たまにいじめられたこととか、勘違いしていたあの頃を思い出しては、壁を殴ります。ひ弱な僕ですが、その時だけは壁に穴を開けるくらいの威力を発します。昔は、父さんが止めてくれたけど、今はもう何もしません。それでいいのですほっといてくれ。

 僕はいわゆるひきこもりです。登校拒否です。人間なんてみんなみんな気持ち悪いしその中でも一番僕が気持ち悪い。なんで人間なんて存在しているんだろう。なんで神様は人間を作ったんだろう。地球には、生命体は、草花だけで十分だ。もう、わざわざ疲れるように生きるなんてごめんだ。そんで僕は無力な凶器です。人一倍僻むのに、矢面に立たされるのが怖いから僻みを行動に移せない。本当は頭の中で何人も人を殺しているのに。助かっている面もあるけど、毎日僻みが体に蓄積されてきて苦しい。馬鹿だから最近になって、その僻みを発散させるには自分の肉体を使えばいいことに気づきました。早速ちょっとだけカッターナイフで自分の手首を切ることにしました。最初は痛かったけど、徐々に習慣になってきました。母さんにリストカットがばれて、ヒステリーを起こされました。仕方がないので精神科に行きました。精神科は変なにおいがしました。長い長い時間待たされた末、やっと診察を受けることになりました。悩み事を話してごらんと言われました。話すことなんてありません。見ず知らずの人に、僕の黒歴史もろもろを晒せるほど僕は馬鹿ではありません。ただ僕は正直に「死にたい」と言いました。僕はとりあえず病気になりました。たくさんの色とりどりの薬を貰えて僕は満足でした。


 早速僕は薬をてきとうに飲みました。久しぶりにすてきな夢を見ました。空は世紀末みたいでとっても美しくて、僕以外みんな死んでいて、空も飛べて、完全に唯我独尊でした。銭湯で放尿したときがピークでした。起きたら久しぶりに布団が小便で濡れていました。僕は布団を捨てることにしました。またまた久しぶりに外に出ました。僕はマンションに住んでいるので、粗大ごみはちゃんとした場所に持って行かなければなりません。しかも雨降っているから尚更。僕は寝小便をしてがっかりしたとはいえ気分は良好でした。久しぶりに睡眠が楽しいと思えました。しかし、今日はやたら人と目が合います。井戸端会議のおばちゃんたち、タクシーの運転手さん、電車の中の通勤通学中の人々。傘をさしている小学生たち。そしてはっきり聴こえました。

「なんでまだ生きてるの?」
「すげー。あんな非生産的な人間がまだ生きれるなんて」
「死ぬ死ぬ言ってたくせに、死んでないとか詐欺」
「かまってもらいたいだけなんだろ。早く死ねよ」

 ああああああああ。何でみんな知っているんだ? 僕には何の価値も無いってことを。そっか僕の頭の中は筒抜けだったのか。薄々気づいていたけどやっぱりそうなのか。僕はみんなと違うって前々から思っていた。幼稚園の頃みんな逆上がりができるようになっていったのに、僕はいつまでもできなかった。みんなは気にしないことを、僕はいちいち気にしていた。僕はそれを気づかれることがこの世で一番怖かった。みんなにどのように見られているかに気を取られて、勉強も部活もままならなかった。結局見透かされてしまった。僕は馬鹿でのろまで何もできなかったから。だけど、その分何か特殊な才能があるんじゃないか、と思っていたけどまさかそれが
〝人に考えを読まれる〟という才能だとは。なんて僕は不幸に生まれてしまったのだろう。母さんも父さんも、なんで教えてくれなかったのだろう。子にはちゃんとした現実を突き付けてあげることこそが本当の優しさではないのだろうか。ほんとうになんて頼り甲斐のない親なんだろう。それより、なんてこの世は地獄なんだ。
 僕は小便が浸み込んだ布団を捨てることを断念し、てきとうに階段上がって踊り場に置いて部屋に戻った。僕は完全に生きる気力を失くした。オーバードーズくらい僕でも知ってる。どうせ死ぬんだったらいい思いして死にたい。母さんは僕の親で馬鹿だから、こっそり薬を隠しておいたつもりでも僕はわかる。流し台の下だろ。あそこには通帳も印鑑もへそくりも全部そろっている。案の定色とりどりの錠剤やカプセルがあった。全部飲んでやった。全部飲んだら死ねると思って。なんとなく点けた教育テレビを観ていくうちに意識が飛ぶようになった。僕は逝けると思った。やったと思った。いらないのに、走馬灯が駆け巡ってくる。しみじみと思う。僕って結構散々な人生を送った。中学に入って無視は当たり前だし計算ドリルがちゃんと数学の時間に手元にあったことなんて片手で数えるくらいしかない。いつも一人だった。だけど、斜め前の女の子もいつも一人だった。遠藤さん。去年の今頃に転校してきたけど今あの学校で何してるんだろう。遠藤さんは目が合うとにっこり微笑んでくれた。何故か僕は特別って思い込んでいた時期があった。馬鹿だなぁ。遠藤さん、顔あんまり覚えていないや。いつものように顔を思いだそうと僕は頑張った。でも、やっぱりわかんなくて、そのまま眠りにつくように僕は死んだ。

 


 と思ったら、目が覚めてしまった。傍らには間抜けな僕の顔がある。風呂には一週間は入っていないから髪はぼさぼさでフケが混じっている。臭いはずだ。でも匂いがわからない。なんとなく立ちあがってみる。なんか安定しないと思ったら、足が無かった。そうか。僕は幽霊になったようだ。絶望した。夕方なので、父さんが帰ってきた。僕の抜け殻を見て、形相を変えて母さんに電話したあと、僕を抱えてどこかへ行った。あはは。おかしいな。僕はここにいるのに。玄関に行くと、布団が戻ってきていた。
 僕は見えないのか。僕が見えないということは、僕が「僕でーす」と頭の中で叫ばない限りは考えが相手に伝わっても特定されない。僕は家の中に相当厭き厭きしていた。外にでたかった。だから外に出た。階段を降りマンションを出ると同級生が帰宅していた。まずい。だけど、何にも言われなかった。僕は安心した。幽霊になってようやく、生き生きできるようになった。
 僕は遠出をすることにした。何も持てないのが難点だけど、お金や肉体を持たないおかげでずいぶん気が楽だった。全然知らない駅で降り、ぶらぶらと歩いた。正確には漂った。外に出ていない僕がスクランブル交差点をすいすい通れている。みんなは傘が邪魔で邪魔で仕方なさそうなのに。徘徊がこんなに楽しいとは思わなかった。徘徊の楽しみをかみしめていた。 
その時だった。
誰かとぶつかったのだ。
ぶつかるとは思っていなかったので、ぶつかり方は派手なものになってしまった。相手の女の人はうずくまっていた。
「だ、だ、だ、大丈夫ですか」
 久しぶりに僕は言葉を発した。相手はものすごく露出狂だった。見ていて痛々しいくらい。そして彼女は色々落としたようだ。拾おうとして、散らばったものを見た。生徒手帳だった。ご丁寧に名前が書かれており、そこには「遠藤かすみ」とあった。頭の中に電流が走った。遠藤さんだ。生徒手帳は拾われた。それをつかんだ手の向こうを見た。やっぱり遠藤さんだ。奇抜な格好だけど、絶対遠藤さんだ。
 遠藤さんと目が合った。僕は幽霊だから、きっと見えないだろう。しかし遠藤さんはまたあの時みたいににっこり微笑んでくれた。よく外国人の人と目が合うとにっ、と微笑んでくれることがあるけど遠藤さんも精神的に彼らと同じ人種なんだろう。遠藤さんにとっては何ともないことなのだろう。そうわかっていながらも僕は嬉しかった。っていうか、幽霊の僕が見えるなんて。
遠藤さんは向きを変えてどこかへ行こうとしている。僕は何故か叫んでしまった。
「遠藤さん!」
聞こえるのだろうか。果たして。僕の声が。大きな賭けだった。すると、遠藤さんは振り返った。そして一言、
「またね!」
と言って向こうへ行ってしまった。
 後を追っかけようとした。またね、っていつ? 教えて。
しかし遠藤さんはあっという間に人ごみの中に消えた。僕は力が抜けた。僕は、僕の身体を雑踏に塗りつぶされて消えてしまいたいと思った。遠まわしに僕との交流を断られたような気がしたから。自分は死んでいたことを思い出した。歳も取らないし、誰にも知られないし。もともとそういう感じの人生だった。だけどなんで僕は死んじゃったことに後悔しているんだろう。遠藤さん、あんな感じの女の子じゃなかったんだけどな。家庭環境とか、周囲を取り巻く状況とか複雑なのだろうか。もしかして僕のせいだったりして。そんなことを考えながらゆらゆら漂っているといつの間にか自分の学校に着いてしまった。夜の学校。まさか僕がトイレの太郎君になるなんて。そんな自嘲のフレーズをひたすらに頭で浮かべながら教室へ向かった。無駄に歴史だけは持っているその中学校は、やけにどこもかしこも古めかしかった。その中で、ひときわ目立つ机があった。まったく綺麗なのだ。横に何か引っかかってあって、名前が書いてあった。援交かすみ。これは遠藤さんだろうと一瞬で判断した。いじめられてる、のかな。僕が社会的に死ぬことによって標的が変わり、彼女が戦うことになったのか。彼女は僕みたいに負けるのかな。あの派手な衣装は、瀕死のサインかな。何もできないくせして助けてやりたい。僕には何もできない。
暴走族が近づいている。この中学は彼らのたまり場だ。幽霊であるとはいえ、怖気づく。彼らを観察するほど物好きではない。おっと窓ガラスが割れる音がする。帰ろう。
感傷的な気分に浸ってふらふらしていると、結局自宅に舞い戻ってしまった。僕はどこまでも引きこもりだ。行くあてがないのだ、家しか。
お通夜が始まっていた。父親は無表情で、母親はさめざめと泣いている。お坊さんがお経を唱えたとき、僕は眩暈に近い感覚を覚えた。どんどん体が透き通っていく。僕はもう消える。人間って、人生こんなに何にもなくっても消えるものなんだね。正直に言えば、有名になりたかった。もうご近所さんにはそうなっているかもしれない。だけどそういうことじゃなくって、憧れのロッカーみたいにシャウトぶちかましてみたかった。でも音痴だし、喋ることすらできないから絶対無理だけど。
おばあちゃんが敬虔な仏教徒だからわかる。これからお経は終盤に差し掛かる。僕の体はもうほぼない。もう死ぬのだな。お父さんも、お母さんも僕が死んで悲しむなんて思わなかった。生きていても迷惑しかかからない僕なのに。まっとうに生きられなくて、ごめん。最後の最後くらいは、親に感謝しなければ。ありがとう。ごめんなさい。
風が吹いた。僕は風になって四方八方に散った。そこにはもう僕はいない。

 


 
 僕は飛び起きた。なんだ、生きてるじゃん。同じような夢をもう52938623097回くらい見た。今日もまた同じ日常がやってくる。いつものように、同じ動画見て同じ種類のゼリーを食べて生きていくのにはさすがにもう厭き厭きだ。今日から僕は本気を出してみることにした。だってもう、親に可哀想な思いをさせたくない。夢で得た反省の意を、今日こそは忘れない。
 一年前は、朝食を食べて吐いてを繰り返して断念した。半年前は、家を出ると鼻血を出して断念した。3カ月前は、エレベーターや交通機関パニック障害を起こして断念した。一カ月前は、学校のみんなの視線が怖くて断念した。昨日は、教室にたどり着いた時にはみんな帰っていた。今日はどうだ。今日は、いい感じで、5時間目に間に合っている。
 教室の扉の前で立ち止まる。これを開けたら今日はミッションコンプリート。これを開けたらミッションコンプ……

ガラッ

「あら、雪平くん。」
と、女の先生が僕を迎え入れてくれた。僕は頭が真っ白になった。すると、先生は
「頑張ったね。君の席は、向こうだよ」
と言って、僕を窓際一番後ろの席へと案内してくれた。みんなの視線は怖かったけれど、今日は何も感じなかった。むしろ温かみすら感じた。それは誇大妄想かもしれない。クーラーの風が心地よかった。
 授業が再開した。なんのこっちゃわからない記号が黒板にずらりとならんでいて、みんなはうまく寝たり、必死に書き写したりしている。みんなすごいけど、今日は僕もすごい。今たぶんニマニマしているから、窓ガラスで自分の顔を確認しようとしてみたならば、窓ガラスには笑顔の遠藤さんが映っていた。こっちを見ている。

「ほらまた会えたでしょ?」

 僕は生の遠藤さんのほうを振り返った。真面目に板書していた。あの夢の派手な格好は何の関係もないみたいだ。そして僕は彼女に対して大人びている印象を持ちすぎていたことに気づいた。あんまり見ていたら目が合ってしまった。にっ、とするかな、と思ったが「は?」と怪訝な顔をされてしまった。窓ガラスの君よ、何処へ?
 とにかく明日も頑張ってやろうと思った。