文字狂い

オタクにもサブカルにもなににもなれずに死ぬ

壮大な遠足

彼氏が欲しいぞ。なぜ彼氏が欲しいか。友達がいないから。友達は難しい。それ言ったら彼氏を作るのも難しいけど、股開けばどうにかなると本気で思ってる。そこに言葉はいらない。友達は言葉が必要だ。お互いに気を遣いあって自分のポリシーを曲げあってお互いを尊重するのが秘訣だと最近わかったけどそれの何が楽しいのか?「お前身の程わかってなくね?」と言った瞬間ブロックされるなら、友達って無為なおままごとじゃないか。


彼氏ができれば、セックスはできるし、会話はしなくていい。素晴らしいね。風俗に行くのは嫌だ、信頼できない、お金払えない、それに私はまだ十四歳だから無理に決まってんだろ。クラスの男子片っ端から話しかけてみるけど、私に同性の友達がいないのが気に入らないのか、皆相手にしないな……!最近転校してきた後藤くんしか残っていないので話しかけてみたら、なんにも知らないので相手をしてくれた。この状況は有難い。


「ねえ、今夜ひま?」
「特にやることないけど」
「あの山の頂上に休憩所があって、予習が捗るんだけど案内しようか」
「えっ、いいの?ありがとう」


私と後藤くんはその夜、中学校の裏山で待ち合わせした。


「ごめん、お風呂入ってたら時間かかっちゃった」
「いいよ、虫よけスプレーした?」
「あ、忘れてた」
「貸してあげる」
「ありがとう」


優しいなあ、後藤くん。他の男子とはえらい違う。顔はぼんやりしていて、はっきり言って顔がデカいしか印象ないけど、優しければなんでもいいよな。


「いつも家で暇なときなにしてるの」
「えー……音楽聴いて寝てる」
「へえ。何聴いてるの」
「クラシックとか……雨垂れの音とか……」
「へー。つまんないね」
「えっ」
「当たり障りがない」
「は、はぁ…………」


男子たるもの、エロ本とか洋モノのアダルトビデオとか見てろよ。音楽はパンクロックだけ聴いてろよ。つまんねえなあ。オフスプリングのベーシストとの泥沼裁判の話ができないじゃないか。


「好きな芸能人とかいる?」
「え……僕あんまりテレビ見ないから…」
「はー。なるほど」
「なんかごめんね」
「いいよ別に」
「井浦さんは、好きな芸能人いる?」
板尾創路
「……???」
「だよね、全裸監督出てたんだけどな、いいよ無視して」


森の奥に進むと、あり得ないくらいカナブンとカメムシが飛んできてうんざりした。たまにホタルも飛んでいたが、大体は交尾をしていた。


「後藤くんナメクジ好き?」
「……いや、特に何も」
「ナメクジの交尾は凄いよ」
「へえ」
「両性具有でお互いの性器を咬みきったりとかするんだよ、その後メスとして生きるんだって」
「ふーん」
「ナメクジはコンクリートも食べるからね。羨ましい」
「羨ましいんだ」
「なんでもできるようになりたい」
「そうなんだ」


しょぼい山なのであっさり山頂に着くと、比較的綺麗なベンチがあったので腰かけた。


「わ!井浦さん」
「なに」
「ナメクジが交尾してる!」


確かに、後藤くんの座るところにナメクジが二匹くんずほぐれつまぐわっていた。でも山がしょぼけりゃナメクジもしょぼいので「こんなもんか」と思ってたら後藤くんは感動していた。


「ぼ、僕たちが見てもいいのかな」
「いいんじゃないべつに」


隣で後藤はソワソワしているが、私は自販機でスコールを買ってちびちび飲んでた。ゲップを誤魔化し「そういやなにしにここに来たんだっけ」と思い始めた。


「井浦さん!」
「なに」
「なんか、草むらに、飛行船がある!」
「へー!知らんかった」
「乗ってみない?」
「えー、虫いたら萎える」
「じゃあ追い払うよ!」
「しかたないなあ」


先に操縦席に後藤が入ったので私は助手席に入ることになった。別に特段こだわりはない。


「これ、動くかな?」
「なんかボタンとかあるの」
「あるよ。あ、動く!」


機体が左右上下に揺れ始めた。


「マジかよ」
「出発!しんこう~」


機体は山を離れ、町を見下ろした。私んちが遠く離れていく。なんか夢みたい。風が私の頬肉を押し上げて、不細工になるのを必死に堪えた。っていうか中学生が操縦していいの?捕まらない?でもこれは夢なんだろう!そう思うしかない……。後藤が存在していたのかも今となっては怪しいし。


「あの月に向かって飛ばすから!」


後藤はさらに加速していく。雲を追い越して追い越して、大気圏へ。
でもちょっと待って。大気圏を通過したら、大体の物体は焼けて焦げてしまうよ。


「後藤!ブレーキ踏も!」


私は隣から強引にブレーキを踏むと、時空の切れ目に私たちは入り込み、気がついたら真っ暗のスプラッシュマウンテンがそびえ立つパラレルワールドに降りたった。私たちの他にも子供たちがわらわらといた。


私たちはブラックボックスの中でなんでもできてしまった。どんなに他の子を傷つけてもその子の傷口は何度も再生するし、お漏らししようが鼻水垂らそうが足元は膝まで水浸しなのでお構いない。唯一の遊具のスプラッシュマウンテンは大人気で一人一回までだったが、一回乗ってしまった子供は二度とここには帰ってこなかった。


「井浦さん、スプラッシュマウンテン乗る?」
「今はいいかな」


だんだん子供の数は減り、スプラッシュマウンテンは最後の便になった。


「僕たち帰ったほうがいいんじゃないかな」
「それもそうだね」
「じゃあ、行こう」


後藤は私の手を取ると少し恥ずかしそうにはにかんだ。悪くはないな。後藤の手が汗ばむと、眼鏡がするりと水の中に落ちた。


「あ!眼鏡が」
「後藤って眼鏡してたっけ?」
「してたよ!」
「私が探すよ、先に行ってて」


私は一人水の中に両手を突っ込んでばしゃばしゃやった。足の裏には岩や餅や吸盤の感触がして気持ち悪い。その中でも手に硬くてちゃちそうな感触がするので「眼鏡だ!」と思って引き上げたら、落としてしまった。もう一度、今度は身体ごと潜って探すと、眼鏡は岩の壁と壁の隙間の奥に沈んで、取れなくなってしまった。ごめん、後藤。


「井浦さん!」


後藤が私を呼ぶ、しまった、最後の便に乗り遅れた。


「後藤ー!助けてー!」


後藤が差し出した手を掴み損ねた私は、眼鏡と同じように岩間の中へ沈んでいく。


「井浦さーん!!!」


私はその声で目が覚めた。不覚だった。デート中に白昼夢などどうしたことか。


「えへへ。疲れちゃったかな?」


後藤青梅は私の初めての彼氏で、心理学の授業だけ一緒。二週間前に知り合った。こいつの中学時代とか知らないし、そもそもどこの馬の骨かまだわからない。処女を喪失して変な夢を見ちゃった。


友達に友情は要らない。セックスするのに会話は要らない。会話に意味は要らない。だけどどうしてもそれだけじゃ寂しくなってしまう。
二十歳現在、相変わらず友達はいない。彼氏は出来たけどいつまでもつだろうか。果たして私は、友達ができるだろうか。会話ができるだろうか。意味を理解できるだろうか。