文字狂い

オタクにもサブカルにもなににもなれずに死ぬ

エンヤ_セグウェイ

やる気をエナジードリンクで召還したら、ただ甘くてクラクラするだけの飲み物だった。この吐息を引きずったまま眠る訳にはいかず、冷蔵庫にある食べれるものを片っ端から飲み込んでいくと、時刻は朝の4時を指していた。

テストが近いので勉強しなくてはいけないが、差し迫って明日という訳ではない。ただ、今から勉強すれば理想的なだけだがうじうじして何もできない。ただ夜更かしをするだけのためにエナジードリンクを飲んでいる。

夜更かしはいい。オリンピックの体操男子が団体優勝したのを生で見られたのは感動的で、内村航平が好きな人に似ている。深夜番組こそ本当のバラエティだと気づいてしまった。こんな面白さを知ったらゴールデンタイムがかわいそうに思えてくる。

でも4時まで起きてしまうと、いよいよ夜更かしをやめなければならない気がしてくる。エンヤの有名曲が延々と流れる天気予報を見ながらこのまま起きようかどうか悩む。
徹夜で授業を受けても授業で寝ないことに気づいた。だから完徹してもいい。
福岡ローカル局特製の天気予報は銀河の画像が繰り返し使われる。エンヤの曲も四曲繰り返される。これを見ている時はいつも同じ悩みを繰り返している。

横たわっても眠気はさっぱりない。心の中の湿地に霧がひとつもない。窓の外はまだ暗いけどだんだん明るくなるのを見てても楽しいだろう。


Orinoco Flowが流れているが、この中では一番好きな曲。文字列からきっと山中でフクロウが吠える歌なのだろう。と思ったら全然違うと気づくにはこれから八年かかる。

セグウェイセグウェイセグウェイ……!
セグウェイセグウェイセグウェイ……!

セグウェイと言えば五年前に目覚ましい唐突さで世に出た新しい乗り物だ。爪先に重点を置くと前に進みかかとに重点を置くと後ろに行く。くりぃむしちゅーの深夜番組の「ブンブンサタデー」に次長課長がゲストに出た時にくりぃむしちゅーセグウェイに挑戦していたがかなり苦戦していた。私はそれを見て(ドレミの音階もわからなければ重心がどこかもわからないのでセグウェイに乗ったら事故を起こすに違いない……!)と思い一生セグウェイに乗らないと決めた。その十三年後にセグウェイは生産中止になる。


実のところ、2012年の私が見ているのは天気予報が映ったテレビの画面ではない。私はテレビを見ているようで、実は記録されている。それに無自覚でいられたのも、目の前には常にテストがあったからだ。

私は私に記録されている。当時気合いが入っていようが全然やる気がなかろうが関係なく覚えている時は覚えていて思い出せない時は思い出せない。たまに脳細胞の棚からビデオデッキが落ちてきて瞬時に再生することがあり、舞い上がっては傷つき苦しみ、心の中でのたうちまわる。
私は私に記録されている事を自覚したところで、人生は変わることがなく変なことをしてしまうものだが。

目の前には八年前の私が夜の醍醐味である静寂と孤独を堪能しているが、夜の悦びは長くは続かない。それからこれを書いている今まで、それをもう一度味わいたくても、あの日が遠ざかる度に夜が辛くなっていく。


いけない。目の前の映像に没頭しないと、余計なボツネタが記録されてしまう。私は八年前の私を見返した。

私は銀河の画像に飲み込まれていた。心が洗われるようなものをローカル局が目指しているのなら、とことん心を洗ってやろうとエンヤの爪弾く音律に精神的ななにかを委ねた。いきなり目を見開いた彼女は、テレビの前から逃げ出す。テレビに何が映ったか。思えばわたしはNHKの最後の君が代がトラウマだし、八年前は存在していたカラーバーも尿意をもよおすくらいには嫌いだった。

きっとカラーバーだった気がする。そう思ってみたけど、そうだったっけ。戻ってきた彼女は母親を連れて必死に説明しているけど、母親はすぐに二階へ戻ってしまう。私は彼女の瞳孔を覗いた。

カラーバーの向こう側には私が映っていた。彼女と比べて十五キロも肥えてて、髪の毛の手入れもサボって、眼鏡も違うし瞼も分厚くなった私を彼女は地縛霊かなんかだと思っているのだろうか。


私は私のテレビを消した。暗闇の中にカラーバーが見える。さっきまでの残像だろう。カラーバーの中に私を探してみたけどどこにも見えなかった。